黒島・トレッキングの話【鹿児島県】

三島村紹介

現代新国語辞典にはトレッキングとは「登頂などを目的とせず、楽しみながらする山歩き」とでている。
登山は「(高い)山に登ること」とあるだけだ。黒島は、鹿児島港からフェリーで5時間半、距離としては近いが時間としては遠い未知の島である。
ゆえに私の所属するTabi&Coco.黒島トレッキングツアーを企画すると定員オーバーとなる。人気のツアーだ。

黒島は標高622mの櫓岳が中央に座し、近くに600mに満たない3つの山を従える周囲約20kmの小さな島であるが、ここは南限と北限の植生がぶつかり合う学術的にも興味尽きない貴重な島と言われている。そこには普段の生活では決して見ることがない風景がある。
中央にある山並み縦走を目指して歩く、
海抜島0mから頂上を目指せる小さい島ならではの「黒島スタイル」のトレッキング。

山から見えるのは4K画面で見るような奥行きのある三次元の景色と色だ。

片泊港から黒島トレッキングを開始

片泊港からトレッキングを開始する。港を出てすぐに20度近い傾斜がトレッキング客を歓迎する。
港から歩くメイン道路の両サイドは集会所、診療所、学校、郵便局、民宿、住宅と程よい間隔で続く。
集落を抜けるといよいよトレッキングモードになる。島の中央林道を約6km先の大里登山口を目指して歩く。
アスファルト舗装と違いコンクリート舗装が多いので長時間歩いているとかかとや膝にダメージがきやすい。左手に大海原を見て登っていく。

右手は急峻な崖が迫り岩肌がむき出しのところが多い。大里登山口まではくねくね、ダラダラの登坂が続く。
時々途中に通行を遮るようにネットが10m位の間をおいて2ケ所に張られていることがある。ヤギを捕獲しているのである。
貴重な植生保護をするためにヤギは害獣に指定されているのだ。

大里登山口手前から本格的なトレッキングスタート

大里登山口手前1.5kmから林道は舗装がなくなり、本当にトレイルになる。
夏草が茂り、行く手を遮り、ブヨや蚊が多い。
やはり木々が色づき、山の果実がみのる10月、11月がトレッキング・シーズンでおすすめだ。

本格的に黒島トレッキングスタート
山頂目指し、山中で昼ご飯を食べ、縦走し、下山するというシンプルな流れだが完璧な1日が手に入る。

山歩きは足だけを使うことではなく全身運動をするし、森林浴がリフレッシュさせる。
山登りはダイエット効果もある。有酸素運動だから脂肪や糖質を燃焼させる効果がある。適度な筋肉がつく。
足腰も強くなり体幹を鍛えることもできる。つまりトレッキングするという行為に付随するアトラクションがいい。

黒島には素晴らしいトレッキングマップがある。
距離が記されているが所要時間は記されていない。
個人差があるからだろう。
鳥観図的なマップに記されている標高、斜度やきつさは何となくわかるが、未知の山には時間が読めない不安があるとき、
私は自分なりにトレッキングの時間を計算してみる。

平地を歩く時には1/25000の地形図上では水平1kmは4cmになる。
平地で歩行距離と時間は4kmで1時間、1kmは15分。
出発地点の片泊港から大里登山口まで直線で4cmだから4kmなので60分と水平の所要時間がでる。

また、一般的に標高300mに登るのに約1時間時間が増えるといわれる。

出発地点から目的地までの標高差を確認して水平の所要時間に、出発時点から目的地までの標高差100m上がるごとに15分プラスしていくと目的地までの所要時間が出る。片泊港から大里登山口まで標高480m、標高で100m登るのに15分だから大里登山口480mまで約75分となる。
水平と垂直の2つを合わせると135分となり、大里登山口まで約2時間半と大体ではあるが自分なりの所要時間を割り出すことができる。

こんな感じでスタートしてから、ゆっくり歩いて2時間半で大里登山口に着く。

黒島の海抜480m~の世界~下山まで

そこは海抜480mだ。

大里登山口から山に入るとすぐに足元にツワやハランの群生があり、そしてスズタケの中を登る。
ハランは宇治群島、諏訪瀬島、黒島が唯一の自生地だという。

スズタケと同じように櫓岳山頂付近にまでハランは見ることができる。
山頂一帯の林床には広くスズタケが密生している。
本土ではどこでも見るスズタケだが南西諸島では黒島が唯一の生息地の南限だそうだ。
しばらく登るとヤブツバキやタブ、シイなどの林にはいる。
山の中央部傾斜地はほとんどスダジイの林だ。
登山道沿いに炭焼き窯跡見つけることがある。
川のそばの傾斜地をうまく利用した大きい炭窯跡だ。
完成した炭を運び出すには川を利用したという。
シイやカシの堅木が多いことから黒炭を生産していたと思われる。

標高500m位から上部はアカガシ林が占めている。黒島は分布の南限と思われるアカガシやスズタケ、北限といわれるガジュマル、ウラジロエノキなどが自生し、南限と北限の植物がぶつかり合うところといわれ植物学者には興味を惹きつけるたまらない島らしい。

生い茂った木々の中を歩けば、気分が晴れやかになり、ストレスが軽減される。
コースは大里登山口からまず標高622mの櫓岳を目指す。山頂からは牧場や大里集落を遠望できる。
その後横岳山(590m)、カムゴ山(569m)、カブリ岳(610m)と縦走して片泊登山口(450m)までのトレッキングだ。

山は季節によって、さまざまな風景に変わる。春の山桜、初夏の新緑、秋の黄葉、冬の景色は山椿だ。

山の景色はいつも同じではない。同じコースを歩いてもちょっとした季節の変化を感じることができる。
カブリ岳の山頂は巨大な岩だ。

その上に這いつくばっておそるおそる広葉樹林の広がる眼下を見るのもスリル満点だ。

午後3時半頃には片泊登山口まで下山できる。
登山口には手配していた迎えの車が待っている。
時間がある時は史跡や塩手鼻の景勝地まで出かけることができる。
夕食までの時間がある時は集落内を散策し、タイミングがいい時は片泊港の防波堤から海に沈むきれいな夕日を眺めることができる。
その時は至福の時間でもある。

スマホやパソコンは欠かせないが黒島の山は電波が通らないところがあるので、強制的にスマホが使えない。
だからただ自然の風景をみつめるしかない。
たえず流れてくる情報をシャットダウンして、何も考えない時間がまたいい。
のんびりと流れる山での時間を楽しむことができる。

私は「登山が趣味です」とはいえない

小さいころから山間で遊んで育った。
夏山はアブや蚊、ブヨ等の虫が多く、おまけにやぶが多く茂り腕を攻撃する。湿度も高い。
だから小さい頃はきれいに整備された都会の公園や街並みを好んでいた。
そのため、私は「登山が趣味です」とはいえない。

しかし初めて降り立った黒島の出会いから現在、いつの間にか嫌いなはずの山を抵抗もなく山を知らない人たちに「黒島の山はいいですよ。」と勧めている。

黒島をトレッキングするなら、新緑の5月頃の季節もおすすめです。

夏山は湿度が高く暑くおまけにやぶも茂り展望も良くない。
また、秋になると楽しく歩けるようになってくる。キノコや木の実が出て、秋の花や、枯葉を踏むのが楽しい。

葉が落ちて空気が澄んでくるので展望も良くなってくる。でもこの時期は蜂に注意が必要だ。
この時期の蜂は気がたっているので、黒系の服は避けて刺激しないようにする。

屋久島のように高くない黒島の600mクラスの低い山なのに、山頂についたときは本当に感動する。
この達成感は他のスポーツでは味わえないと思う。
海抜0mから目指すは山頂という明確なゴールがある。
たどり着くまで頑張って登り続け、ゴールについた時には素晴らしい景色が待っている。
こんな単純で爽快感のある素晴らしいスポーツは他にない。

登れないとみられない素晴らしい景色が待っている。
最高峰622mと低いけれど登頂したその時の達成感がある。
そして山で食べるご飯が美味しい。街なかで食べるステーキよりも寿司よりもいつも食べる料理と一味違ってものすごくうまい。

山登りに適している食べ物はやはり「おにぎり」だ。おにぎりは手軽で持ち運びしやすく、腹持ちが良い。ノリや塩に含まれているミネラル成分を補給できる。
米はエネルギーに素早く変換する。おにぎりの具にもなる鰹節には疲労回復の効果がある。塩分が含まれる梅干しもおすすめだ。

途中の眺望の良いところで私は昼食をとる。
おにぎりだと手が汚れないし、残したらまた包んで後で食べることもできる。
食べ終えたらラップを小さく丸めてリックに入れる。ゴミのことも悩まず良いこと尽くめである。
目の前で焼くメザシがあったら最高!なのだが・・・

山歩きはコースの特徴をつかむのもひとつのポイントだ。
山の樹木や草木の分布は地域、標高、気候、地質などの自然環境が密接に関係している。
例えば黒島には植林帯はない。広葉樹林帯だ。

展望はきかず、単調に感じやすいが、春の新緑、秋の黄葉は楽しい山歩きができる。
スズタケが一面をおおっている場所は、笹が深いと道を見失わないように注意が必要となる。
山に入ると野鳥のさえずり、木々のざわめき、木の匂い、葉の匂い、水の匂い、木洩れ日、新緑、黄葉、パノラマ景色と自然がいっぱいだ。
シャッターを押すだけで「おっ」と思える写真も取れる。

山登りする前にはまた別の楽しみが

興味がない人にとってトレッキングなど「延々と険しい道を登って降りるだけの無意味な苦行」にしか見えないだろう。
「そこに山があるからだ」という使い古された言い回しをするつもりはないが、山登りする前にはまた別の楽しみもある。
それは初心者ほど「今度の山登りには何を着ていくか、靴はどうするか、食べ物は何を持っていくか」と準備期間が楽しいのです。

「ゴアテックス素材がいいけど高価だな~。綿素材のものは乾きにくい、だからできるだけポリエステルなどの化繊素材を選ぶかな~。天候も変わりやすいので状況に応じて脱ぎ着できるよう重ね着でコーディネートしよう。」などなどだ。
インターネットで調べたり、専門店に行ったりして、すっかり「山ガール」、「山おじさん」になるのです。

鹿児島港から2泊3日のスケジュールの方がおおいと思うが、その場合ゆっくりと楽しめる黒島トレッキングができる。
大里港の朝日を拝み、島を縦断して片泊港で夕日を拝むという丸1日あれば島を縦横無尽に歩くロングトレイルもできます。
小さな屋久島、ともいわれる黒島のトレッキングは、山歩きの登竜門・入門編としてぜひお薦めします。